コロナによる就労環境の変化に伴い、副業の希望者が増加
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、副業・兼業に対する意識が変わりつつあるといわれています。
・外出自粛とテレワークにより今まで通勤に費やしていた時間が余暇となる
・仕事が減り残業代がなくなる。賞与の不支給や減額による経済的な不安
といった理由から副業を希望する方が増えてきています。
(グラフ:総務省 就業構造基本調査 第2回副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会 資料5 より)
企業においても、事業や組織の活性化につながると考え、特殊なスキルをもった人材による副業の受け入れも増えつつあります。
しかしながら、企業は本業として働いている社員には、自社の業務が疎かになる、企業秘密が漏洩するなどの懸念から積極的に副業・兼業を認めてきませんでした。一方で過去に会社が副業を禁止することについて争った裁判では、「社員がプライベートの時間をどのように利用するかは自由」であり、よほどのことがない限り副業を禁止することはできないとされています。
例外的に副業の禁止・制限が認められる場合として次の4つがあげられます。
1.労務提供上の支障がある場合
2.業務上の秘密が漏洩する場合
3.競業により自社の利益が害される場合
4.自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
以上の点からも、あらためて副業・兼業の是非について企業も検討する必要があるかと考えられます。
1.副業・兼業のメリット・デメリット
副業・兼業のメリット・デメリットを整理します。
メリット | 社員 | 所得の増加 本業では習得できないスキルや経験の蓄積 新たな人脈の形成 |
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企業 | 社員のスキルアップ 社員が副業で得た人脈による事業機会の拡大(顧客や協業) 優秀な人材の獲得、人材定着に結び付く |
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デメリット | 社員 | 過重労働により体調を崩す恐れやワークライフバランスを維持できなくなる |
企業 | 十分な休みがとれず、本業が疎かになる 副業先への転職などにより離職を促すことになりかねない 機密情報の漏洩のリスクがある |
2.国は副業・兼業の促進を後押し
国は副業・兼業が人材の活性化につながると考え次の通り推進しています。
「人生 100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要である。また、副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられる。」
具体的には、2020年9月の労災保険法改正による兼業者の取り扱いや2018年1月に発表され2020年9月に改訂された厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」などがあげられます。
労災保険法の改正 2020年9月~ 兼業者の給付額が手厚くなる!
仕事中のケガ等による休業や不幸にして亡くなってしまった場合などの給付額の計算方法が変わります。労災保険は、社員個人の賃金額が多いほど給付額も多くなります。
以前は、2つ以上の会社で仕事をしていても、ケガをした会社のみの賃金額を基に給付額が計算されていましたが、9月以降は、全ての働いている会社の賃金の合計額を基に給付額が計算されるようになります。
3.見過ごされがちな労働時間管理
副業・兼業を実施する場合に留意しなければならないのが労働時間管理の問題です。
労働基準法では労働時間は1日8時間1週40時間までとされています。この時間を超えて労働させる場合には、36協定を締結、労働基準監督署に届け出ることで一定の上限の範囲内かつ割増賃金を支給することで時間外労働をさせることができます。
実はこの労働時間は兼業者の場合、本業と副業をしている企業ごとの労働時間が通算されます。要するに本業に正社員として8時間働いた後、2時間の副業を行った場合には、副業先の企業は2時間分の時給を払うだけでなく、この2時間は時間外労働となり割増賃金の支払いが必要となります。実態としては、労働者本人が副業していることを会社に黙って行っていることが考えられ、気づかずに労働基準法に違反していることも十分考えられます。
また36協定において、限度時間(45時間)を超える時間外労働は、法律で1か月あたり次のとおり定められています。
<限度時間(45時間)を超える時間外労働>
時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満とする
時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内とする
本業と副業の時間外労働を通算した時間がこの上限を下回る必要があります。
よって、本来であれば、副業と合わせて月100時間以上もしくは複数月平均80時間超の時間外労働と休日労働にならないように月ごとに労働時間を通算管理する必要があります。
しかしながら、労使双方で確認し管理が必要となるため手続き上の負担が伴います。よって厚生労働省の2020年9月1日のガイドラインの改正に合わせて、管理モデルを提唱しています。
A社=先に労働契約を締結していた使用者
B社=時間的に後から労働契約を締結した使用者
①副業の開始前にA社における1か月の法定外労働時間とB社における1か月の労働時間とを合計した時間数が単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内となる範囲内となるよう、各社における労働時間の上限をそれぞれ設定する。
②A社は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、B社は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払う。
これにより、A社及びB社は、副業・兼業の開始後においては、それぞれあらかじめ設定した労働時間の範囲内で労働させる場合に限り、常に他社における実労働時間の把握を要することなく労基法を遵守することが可能となります。
4.副業・兼業の実施において企業に求められる対応
就業規則等で副業を禁止している会社については、過去の判例などから原則、副業・兼業を認める方向の見直しが求められてきます。しかしながら、あれもこれもと何でも認めてしまうと企業の秩序を乱す恐れがあります。職務専念義務や労働時間管理などの点から一定のルールを設けることが求められます。
具体的には副業・兼業を届出制にし、会社の事業活動に支障が及ばないよう次の副業・兼業の禁止・制限をする事項を設け、社員に周知します。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
また、副業・兼業の届出にあたり、次の点を会社に報告するルールを設けます。
<会社に報告するルール>
・他の使用者の事業場の事業内容
・他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
・副業先との契約形態(雇用契約・業務委託契約)
⇒労働時間通算の対象となるか否かの確認
・契約の締結日、期間
・他の使用者との労働契約の締結日、期間
・他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
・他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
・他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
・これらの事項について確認を行う頻度
よって、就業規則の服務規定の変更、届出書等の社内書式の準備や手続きのフローを整備することで、労務トラブル防止し適切な副業・兼業に結び付ることができます。
また、社内のルール整備については、本業の社員が副業することを前提に考えがちですが、アルバイトなどの非正規社員の方が、別の会社で本業として従事していることも十分考えられますので、あらためて採用時に他の会社で働いていないかの確認と働いている場合は時間外労働などでトラブルにならないよう労働時間管理に留意する必要があります。
最後になりますが、昨今、働き方改革により長時間労働の是正が求められているなかで、副業・兼業をすることで社員個人が過重労働になっては本末転倒です。1か月あたり100時間、複数月平均80時間の規制について単に遵守するだけでなく、健康管理の観点からも兼業者が長時間労働にならないよう配慮すべきと考えられます。会社も兼業者に対して健康のため長時間労働にならないよう自己管理の徹底を指示することも必要となります。
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