2021年2月5日の日経新聞一面に「シニア人材も成果主義」との記事が掲載されました。具体的には、カシオの50歳以上を対象とした副業解禁と60歳以上への成果主義の導入、明治安田生命の60歳から65歳への定年延長と管理職の登用など各社の取組がまとめられており、シニア社員の処遇制度の見直しが進んでいることが窺える内容でした。
見直しの背景として、シニア労働者の増加とスキルを備えた人材の不足が考えられます。厚生労働省の調査によると10年前と比較すると60歳以上の労働者は、約1.7倍の409万人となり、全世代に占める割合も8.8%から12.7%に増加しています。
31人以上規模企業における60歳以上の常用労働者数と全体に占める割合
厚生労働省 令和2年「高年齢者の雇用状況」日本クレアス社会保険労務士法人改編
今回は、なぜシニア社員の働き方・処遇の見直しが必要なのかを深掘りし、見直しに向けて企業に求められる現状確認の方法についてお伝え致します。
なぜ、シニアの働き方の見直しが必要なのか?
1.熟練人材の不足
ベテラン社員が定年を機に退職したことで、スキルを備えた人材の採用が間に合わず、現場が混乱してしまった。せっかくの仕事の依頼も断らざるえなかったなど人材不足により事業に支障をきたしてしまったことを耳にすることが増えてきました。
特に一定のスキルを持った人材が必要とされる事業においては、専門技術を備えた職人のような人材を確保できないことは事業継続上死活問題となります。
高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によると定年延長を決断した企業の多くが人手不足の課題を抱えており、専門・技術職や現業職が多くいる企業ほど、長年の経験で培われた技術のあるシニア社員を活用するために、定年延長を実施していることが窺えます。
定年延長企業の人手不足状況 n=1,840
定年延長企業における最も多い職種 n=1,840
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 「改定版 定年延長、本当のところ」2019年
2.2025年問題
一般的に、「2025年問題」というと、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、世界でも類を見ない超高齢化社会になることを指しますが、もうひとつの問題として国も社会保障給付費の抑制のため、2025年に60歳以上のシニア労働者の貴重な収入源でもあった特別支給の老齢厚生年金の廃止や高年齢雇用継続給付の減額(段階的な廃止)が行われます。
このような公的給付は給与が増えると相殺されてしまうため、最大限受給できるように60歳以上の賃金を低額に抑えている企業も多くあることから、賃金制度の見直しが迫られます。
3.同一労働同一賃金への対応
2021年4月(大企業は2020年4月)から、法改正により同一労働同一賃金が適用されます。定年後に継続雇用制度を採用している企業で、有期雇用のもと再雇用労働者が正社員と同様の仕事をしている場合は、不合理な待遇差となっていないかを確認することが必要です。
具体的には定年後の継続雇用であるという理由だけで、大幅に給与を減額することは難しくなりますので、役割に見合った処遇制度を検討していくことになります。
①人件費の高騰を防ぐために再雇用後の賃金を抑えたいのであれば、正社員よりも業務の範囲、量、責任を少なくする。
②再雇用後も正社員と同様の業務を担ってもらいたいのであれば、正社員と同水準の給与を支給する。
このように継続雇用の場合は、同一労働同一賃金への対応が求められることからも人手不足の企業などでは、対応の必要がない定年延長に踏み切ることも想定されます。
また法改正による必要性に限らず、シニア社員にヒアリングを行うと定年前と仕事は変わらないのに給与が低いとの不満の声が多く、モチベーションが上がらないことに繋がりかねませんので、役割と賃金のバランスについては慎重に対応することが求められます。
同一労働同一賃金の詳細はこちらのトピック「同一労働同一賃金 手当・賞与・退職金の待遇格差についての最高裁判決のポイント」で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
4.法改正 70歳までの就業確保措置の施行
改正高年齢者雇用安定法の施行により、2021年4月から70歳までの就業機会の確保が努力義務になります。具体的な内容は次の通りです。
<高年齢者就業確保措置>
①70歳までの定年引上げ
②70歳までの継続雇用制度の導入
③定年廃止
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度
⑤70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度
今回の法改正は努力義務ですので直ちに実施しなければならないわけではありませんが、過去の定年の引上げの法改正の変遷から、努力義務を経て義務化されることが考えられますので、将来を見越した検討が必要です。
70歳までの就業確保措置の詳細はこちらのトピック「高齢者の就業機会の確保に関する法改正 ~70歳定年に向けて~」で詳しく解説しています。併せてご覧ください。
シニアの活躍に繋がる働き方の検討のために
1.5年・10年後を見据えた人員構成と賃金
現在の従業員を年齢階層別に集計し、5年後10年後どのような構成になるのかを把握することで、シニア活用の方向性、見直しの時期、スケジュールを検討します。
【例】 年齢階層別人員構成
【考察】
工務部と営業部のベテランが60歳定年退職を控えているため、人材不足に陥らないためにも、定年引上げや処遇の見直しが求められる
人手不足に対応するために定年延長や処遇を引上げる場合は、総人件費が増えることになりますので賃金制度の見直しを検討することになります。必要に応じてシニアだけでなく会社全体の賃金カーブの見直しが求められることもあります。よって現在の総人件費と昇給率を考慮した将来の総人件費を試算することも必要です。
また、優秀なシニア層の離職やモチベーション低下の防止のためにも、同地域・同業の賃金水準を下回っていないかを確認し水準を見直すことも肝要です。
2.今後の働き方についての意識調査
人員構成・賃金水準といった定量的な分析だけでなく、シニア社員やこれから定年を迎える世代や周りのメンバーがどのように考えているのかを把握することも重要です。具体的にはアンケートや面談などを実施することでシニア雇用に関する社員の意識を確認します。
アンケート内容として次のような項目が考えられます。
- 就労意欲や仕事のやりがい
- 何歳まで働きたいか(定年延長の必要性)
- 希望する働き方(正社員と同様にプレイヤーとしてバリバリ働きたい・業務負担を減らしてプライベートを充実させたい・後進の指導育成を担いたいなど)
- 人事制度に対する不満や希望はないか
- シニア雇用に対する企業風土(会社の施策や方針に対する印象)
アンケートの結果を整理することで会社の方針と乖離はないかを確認し、具体的な働き方・賃金・評価の仕組みや定年延長について検討をしていくことになります。
日本クレアス社会保険労務士法人主催セミナーのご案内
日本クレアス社会保険労務士法人では、人事や労務の課題解決のヒントを得ていただける多様なセミナーを開催し、大変ご好評をいただいています。最新のセミナー情報は「セミナー情報・お知らせ一覧」からご確認いただけます。
シニアの活躍に関するセミナーとしては、2021年4月21日・5月13日に開催いたします。
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日本クレアス社会保険労務士
ディレクター 社会保険労務士 中山 啓子
2012年日本クレアス社会保険労務士法人の設立に携わり、ディレクターに就任。上場企業から中小企業まで規模の大小を問わず、人事労務相談や就業規則改訂、人事制度設計、労務デューデリジェンスに従事。コンプライアンス対応、労使バランスを重視した実践的な研修及び人事労務セミナーを年間20本開催。
日本クレアス社会保険労務士法人は、日本クレアス税理士法人、株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティング、株式会社コーポレート・アドバイザーズM&Aの主要3法人とグループを形成し、総合型会計事務所グループとしてワンストップでサービスを提供できることを強みとしている。